大学生チッポラの小説

国立理系大学生。実話とフィクションを織り交ぜた小説を書いています。気ままに更新。

小説【夢日記】 評価-第1章-

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評価

2021年1月8日

夢を見た。

この雰囲気は、白髭のおじいさんの夢だ。
でもいつもと少し違う。
時間が経つにつれて、おぼろげな景色が次第に鮮明な風景へと移り変わっていく。
見えてきたのは白髭のおじいさんではなく、
知らない男の人の面影だった。
その男性は、ひどく周りを気にしている様子だ。
その人の心の気配が、不思議と少し伝わってくる。
周りが僕をどう見ているか、そればかりを考えている様だった。

僕はこの時、この男に強く共感した。
僕にもよくわかる感覚だ。
周りの評価がかけがえのない”生きがい”なんだ。
その灯火が消えないように、必死に握り抱えている。
とても、わかる。

突然、男の様子がおかしくなった。
男の足がすごい勢いで痙攣している。
もはや立つこともままならない。
だが、男はそんなことは気にも留めず、
ただずっと周りを気にして笑みを浮かべる。
それはとても奇妙で、不気味で、滑稽だった。
その姿はまるで、素人が操作する操り人形のようで。


「今の男を見て、君は何を思った。」
突然、白髭のおじいさんの声が聞こえた。
同時に今目の前にいた男がその翁へすり替わっていた。

「初めは共感しました。でも...とても不気味に感じました。」

「そうかい。
今の男は、君が感じた通り、人の目を気にしてばかりいる男だ。
そして、君が不気味と感じた動きは、それが起因して起きていたのだ。」
「男は、人の目を気にするあまり自分の立ち位置が明確にならないのだよ。
だから文字通り、足がおぼつかない状態だった。
評価のあるところを嗅ぎつけてばかりいて、己のやりたいことすら定まらない。
そういう状態だったのだよ。
重ねて、君はどう思う?」

「”人の目を気にしない”だなんて、そんな文句は耳にタコができるほど聞きました。
変わりたいとは思いますが、じゃあどうすれば良いんですか。
それがわからないんですから。」

僕は少し、苛立ちを覚えていた。
気にしてしまう方だって、薄々そんなことは気づいている。
だけれど、変わり方がわからないんだ、しょうがないじゃないか。
そうだよ、仕方ないんだよ。


「まず君があの男と同じであると気づいた事がまずは大事な第一歩だよ。
その次の段階は、変わりたいと心からそう決めなさい。
どうすればいいのか、ではなく、どうするか。
今の君は、気づいたものの、それを必死に抱えている。
手放したいと言いつつも、手放さないで握りしめている。
手放す覚悟を決めなさい。
そうすれば、今の君の苦しみは取り除ける。」

夢から覚めた。
今日はあまり釈然としない...

そもそも僕は変わりたいのか。
いや確かに曖昧だ。
評価を気にしない自分になって、
評価が得られなくなるようなことは嫌だ。
評価を失うことは怖い。怖いんだ。
評価が生き甲斐だ。失いたくない。

そもそもこれが僕なんじゃないのか。
僕という人間は、はなから評価がたまらなく好きな人間なのかもしれない。
水無くして生物は生きられないように、
僕にはこれがオアシスなのではないか。
それだったら、どうやって変われるって言うんだ。


でも、それでも、こいつが苦しみを手招いている。
評価を得たいという気持ちは無限に湧いてくる。
止まるところを知らない。無限の欲求だ。
でも永久に評価を得られることなんてない。
誰だって僕だけのことを見つめて生きてなんかいない。

評価は別の誰かのところに行くこともある。
必死に頑張ったとしても、必ず評価がついてくるわけでもない。
評価を得られたとしても、それに満足しない時もある。

そんな時、激しい葛藤が生まれる。
嫉妬、焦燥、憤り、失望。
その都度、身が灼かれるような苦しさが襲ってくる。
そして最後には、絶望がやってくる。
評価のためにやっているから、全てがもはや苦行だ。
あぁ、つまらない。楽しくない。
生きていても喜びがない。

この苦しさは今すぐにでも手放したい。
でも、本当にこれが僕にとって、
必要不可欠なものかもしれない。
評価のない世界など、考えもつかない。
そんな世界を僕は生きられるだろうか。
わからない...
身を縮ませ、悔しさに翻弄される。