大学生チッポラの小説

国立理系大学生。実話とフィクションを織り交ぜた小説を書いています。気ままに更新。

小説【夢日記】 評価-第2章-

 

f:id:zipporah-blog:20210112213719j:plain

評価

2021年1月12日

 

 

 ぼんやりと意識がある。

あぁ、これは夢だ。

そして、あの人の夢だ。

 

そういえば、前回は...

あぁ、思い出した。

評価を気にする男の行く末を見せられたんだった。

理解が追いつかないまま覚めてしまって、

気分が悪かった。

 

いや、正確に言えば、理解はできた。

言われていることは、恐ろしいほどにすんなりと咀嚼できた。

でも、それを飲み込むことができない。いや、飲み込みたくない。

そんなモヤモヤで気分が悪かったんだ。

 

今日はこの感情を、思いそのままにぶつけてみよう。

 

「これが僕だ。

僕の一部であって、アイデンティティであって、矜持だ。

生まれる前に意思があるなら、評価を得るために

死ぬ物狂いで食らいついていく覚悟で来ているんだ。

きっとそうだ。

だから、そう簡単に投げ捨てなさいと言ってくれるな。」って。

 

さぁ、こい!

僕の気持ちを受け取ってみやがれ!

僕は意気込んだ。

 

・・・

だけど何も起きない。待てども待てども、誰も来ない。

いや、ここは夢の中だからどれほど時間が流れたかは知れないけど、

体感的には長い時間に感じた。

 

時間が経つにつれて、意気込んだ興奮が肩透かしにあったようで、

なんだか気が鎮まってしまった。

 

その矢先だ、声が聞こえた。

 

「君の考えはよくわかったよ。

しかし安心しなさい。それは君じゃない。

それは、手放せる代物だ。」

 

 

景色が変わった。

淡い記憶が呼び起こされる。

 

「君は幼い頃は評価など、気にはしていなかった。

自分の好きなことに凝っていたし、評価がなくとも楽しんでいた。」

 

目の前で淡く広がる景色は、

僕の幼少期の頃の記憶だ。

 

あぁ、なんで忘れていたんだろう。

確かに僕にも、誰の目も気にしていなかった頃があったんだ。

 

「だから、それは君じゃない。固執する必要はない。」

 

僕は絵を描くのが好きだった。

お世辞にも上手いわけではなかったが、

ずっと描いていた。

誰に見せるでもなく、ただ黙々と描くのが楽しかった。

工作が好きだった。

いろいろなものを作って楽しんだ。

例えば、白紙や段ボールを使ってジオラマを作った。

それも誰に評価を乞うこともなく、作ってそして壊した。

 

今では考えられない行動なんだ。

誰にも見られない。誰にも評価されない。

 

そこに価値がなくなった。

いつからか、絵を描いたり、物を作ることが楽しくなくなっていた。

どうして。

 

「評価癖が、どうして君に染み付いてしまったのか。教えてあげよう。」

 

「それは君が思い出せない、遠い遠い頃の記憶だ。

君は、実は評価を気にするよりも、

自分の好きなことを黙々とやる方が好きだった。

むしろ評価を気にしていない部類だ。

だけど、君の近くにいる人は、それを良しとはしなかったんだ。」

 

「評価が得られないのに、

ただ好きな事に呆けている君の姿を嫌ったのだ。

そして君はしばしば非難されるようになった。」

 

「そしてそれが繰り返される内に、君はこう考えるようになった。

『自分の好きなことをしているだけでは、周りを不幸にしてしまうのだ』

それが恐怖の記憶となって、がんじがらめになっている。」

 

「君が真に恐れているのは、

評価を得られないことよりも、

怒られる恐怖だ。

手放せない恐怖はそこから来ているのだ。」

 

「確かに、それを完全に手放すのは、きっと容易ではない。

だが、今君はこの性質が君から切り取ることのできないものではないと知った。

これが君の重りであることを知ったはずだ。

さぁ、その上でどうしたいか。考えてみておくれ。」

 

「そして、もう一つ助言をしよう。

人に気をつけなさい。

君の恐怖が繰り返されぬように注意しなさい。」

 

僕は夢から覚めた。

 

言葉が出ない。

あぁそうか...これは僕じゃなかったんだ。

 

一気に、僕の中でつっかえていたものが取れた気分だ。

僕はどうして評価を気にしたのか。

僕はどうして手放すことができなかったのか。

僕はどうして、”恐怖心”を感じたのか。

全てが僕には、腑に落ちた。

 

まだ簡単には、手放すことはできないけれど、

僕の意思は大きく変わった。

変わっていこうと思えた。

ようやく少し、向き合える。