大学生チッポラの小説

国立理系大学生。実話とフィクションを織り交ぜた小説を書いています。気ままに更新。

小説【夢日記】評価 -最終章-

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評価

 

2021年1月15日

 

夢を見た。

例の夢だ。

白髭のおじいさんが色々教えてくれる。

 

僕は広い草原に立ち通していた。

淡い緑が全面を覆い、そして空は澄みきっていて雲一つない晴天だった。

小風が吹くと、ふんわり若草の香りに包まれる。

夢でなければきっと横たわって、うたた寝していたに違いない。

 

前方に小さな丘があり、その上には1本の大木が生えている。

その横に人影が見えた。例のおじいさんだ。

僕はゆっくりと歩み寄る。

 

「やあ、こんにちは。

今日も今日とて、よい1日になりそうだ。」

おじいさんは言った。

僕も軽く挨拶をし、おじいさんの後ろ姿に目をやる。

 

「今日は、そう、一つ物語を語ろうか。」

 

『―――そこは暗くてじめじめした所だった。

僕は誰だろう。

それすらわからない。

ただ寒くて、寂しいんだ。

 

幾分の時が経った頃、

突然、暖かい水を感じた。

なんだろう。

「ねぇねぇ、種さん。おはよう。」

女の子の声が聞こえた。

ああそうか、僕は種でここは土の中だったんだ。』

 

すると前面に広がる草原に、女の子が現れた。

どうやら、目の前で物語が進んでいくようだ。

 

『女の子は、来る日も来る日も種に水をあげた。

種はとても喜んだ。

暗くて寂しかった記憶など嘘のように。

 

「ねぇねぇ、種さん。君は何の種さんなの?

私はトマトが好きだから、トマトの木になってほしいな!」

女の子は言った。

それを聞いた種は、女の子の期待に応えたいと思った。

トマトの実をいっぱい実らせるぞ!

そして、種は発芽しすくすくと育った。

茎はメキメキと太くなり、葉は次第に生えそろい、

少しずつ実を作る。

 

種は長い時間をかけて、立派なトマトの木になった。

きっと女の子は喜んでくれるに違いない。

期待を胸に、女の子を待った。

 

だけど、女の子は一向に来ない。

飽きてしまったのだ。

女の子は、他の子供たちと一緒に遊んでいた。

 

どうして。

君が、トマトが好きだと言ったじゃないか。

種は、悲しんだ。

そしてそれは怒りへと変わり、寂しさに化け、

ついには枯れ果ててしまった。

 

種はまた、土の中に元通り。

暗くて寒くて寂しい。

 

その時、種は気づいた。

そうだ。僕のなりたかったものはひまわりだったんだ。

期待に沿おうと頑張って、

それでも認められず苦しかった。

だけど、ようやくなりたいものに気づくことができた。

今度は、誰になんと言われようと、僕はひまわりになる!

 

種はそう誓い、ひまわりになるべく励むことにした。

世話をしてくれる人はいないけれど、種はすくすくと成長した。

発芽し、双葉が生え、茎が伸び、花弁が咲く。

 

長い時間を経て、気づけば種は立派なひまわりへと成長していた。

ひときわ大きなひまわりだ。

 

すると、いつの間にか周りに人が集まっていた。

「あら、なんて立派なひまわりなのかしら。

とっても綺麗ねぇ。」

 

僕はとても暖かい気持ちになった。――』

 

 

「この物語は、きっと君の役に立つはずだ。

依然不安は拭えないかもしれないが、覚えておくといい。」

 

あぁ、今日はもう覚めてしまいそうだ。

 

「...おじいさん、ありがとうございました。」

 

意識の戻り際、

かすかに微笑んでいたように見えた。

 

そして、僕は目を覚ました。

 

 

変わることはやはり難しい。

思考の癖は気づくことすら困難だ。

加えて感情だってすぐに切り替えることはできない。

だけど、変わりたいと思うことができた。

実はそれは大きな変化なのかもしれない。

夢の話は決して目新しいメッセージというわけではない。

それでも、今まで苦しかった経験を振り返って、

今このタイミングで、僕にわかるように、

教えてくれたから、きっとスムーズに納得することができたのだろう。

 

存外、苦しみの打開する方法というのは、結構目につくところにあるのかもしれない。

だけど、僕らは素直になる術を知らない。

僕ももう少し、愚直に生きよう。