大学生チッポラの小説

国立理系大学生。実話とフィクションを織り交ぜた小説を書いています。気ままに更新。

小学5年生の時に突然海外の公立校に入学したときの話①

ふと、過去の思い出を振り返りたくなったので、どうせならnoteで共有しちゃおうと思い立ちました。知恵も知識も持たないペぇペぇなお子ちゃまが、突然海外のしかも公立校に入学したときの奮闘記です。

 

あれはちょうど、僕が小学5年生の頃でした。

親の仕事の都合で、オーストラリアに転勤することになりました。

向かった場所は、オーストラリアのシドニー

都市としての規模も大きく、特にアジア系が多いので、

日本人としても住み心地の良い場所です。

 

当時の僕は、もちろんそんなこと知りません。

知っていることは冗談抜きで、

どうやらオーストラリアという国があるらしいということだけでした。

 

英語なんて全くできません。

小学校ではサンデーマンデーと曜日すら言えなくて、

英語の授業は退屈極まりないものでした。

 

そんな僕が入学した学校は、オーストラリア・シドニーにある公立校です。

普通であれば、日本人学校に入るところでしょう。

ですが、親はどうせなら公立校でしっかりと英語を学ばせたいと思ったようです。

実際それが功を奏して、ある程度英語が喋れるようになったので、感謝です。

 

オーストラリアでの日々は今思い返してみても刺激的でした。

僕の価値観を大きく変えたと思います。

ですので、個人的大好きエピソードを紹介しながら振り返っていきたいと思います。

 

入学当初の話

 

転校手続きを行って、いざ戦場へ。

転勤族ということもあり、僕自身は転校にはかなり慣れていました。

自分の歳より、引っ越し回数が多いというのが当時の僕の誇らしいレコードでした。

たいていの学校では、すんなりと馴染めたので、馴染めない恐怖はあまり考えていませんでした。

 

とはいえ、(当時の心持ちを鮮明には覚えていませんが、)かなり緊張していたと思います。

なんていったって、言語が通じない場所は初めてですから。

入国時は、興奮冷めやまずといった気持ちでしたが、

この時ばかりはべらぼうに緊張していたと思います。

 

たいてい転校生は自己紹介をしますよね。

第1印象というのはとても大事ですから、ここの当否はとても重要です。

なのに、当日まで僕はその存在を失念していました。

突然思い出した時には時すでに遅し。

 

「あれ?なんて言えばいいんだっけ?ハローマンデーセンキューサンデー…?

ちくしょう、なんてこった全くわからねぇ!

だが、ちょっと待てよ落ち着け。

先生は僕が英語を喋れないことを知っている...

そんな相手に話を振るだろうか...

いや、僕なら振らないな。」

 

なんとか心の落ち着きを取り戻し、

体育の授業中だった配属クラスに入っていきました。

先生が何やら英語で僕を紹介してくれています。

僕は悠然とした雰囲気で、直立不動。

話が終わったところで、お辞儀をしよう。

そう思っていたのに、何やらおかしい。

先生が僕に話を振っている。

いやまさか。

...あれ?

 

これは自己紹介をしなさいという合図じゃないか。

まじかよ...

さっきまでの悠然はどこへやら。

脳みそフル回転、冷や汗総出勤。

やっとのことで、絞り出した挨拶が

「ハロー、ハワユー。センキュー。」

 

上出来です。

そうでしょう。

頑張ったと思います。

その後のちょっとした「間」なんて覚えていませんよ。

確か心を鷲掴みにしたはずです。

 

そして、先生がクラスの2人の女子生徒を僕に紹介しました。

その2人の生徒は、中国人と日本人のハーフでした。

日本語が少し喋れるようで、サポートしてあげてくれといった感じです。

 

...いや、先に言えよ!!

そしたら翻訳してもらえたやん!!!

出かかった言葉をなんとか飲み込んで、一礼しました。

ここから、僕のオーストラリア奮闘記が始まりました。

 

ここで、一つ大事な補足をしておきます。

英語も全く喋れない僕が、

オーストラリアの公立校に入学できた理由は、

ESL制度のおかげです。

全ての公立校ではないですが、僕の通うことになっていた公立校には、

ESLといって、英語の補助をしてくれる特別クラスがありました。

僕は、通常のクラスに配属されたわけですが、授業を抜け出して、

ほとんどの時間をESLで英語の勉強をしていました。

先生はネイティブの先生なので、日本語でのサポートはありませんが、

簡単な英語で、例えば絵本なんかから勉強を始めるので、特に困ることはありません。

こういった制度があるのも、移民国家特有かもしれません。

 

それからどしたの

 

この頃の子供って、本当に最強だと思います。

恥とか自尊心とか、そういうのが全然気にならないというか、

気づかないというか。

言語も通じないのに、内に篭ってしまうこともなく、

もはや英語とも言えない独自言語をべらべらと喋って会話を試みるんです。

今思い返すと恥ずかしいですが、当時は全然恥ずかしくなかった。

それに、周りも理解してくれるんですよね。

しかもそこに違和感なく、「こいつ何言ってんだろう」みたいな変な空気感も一切ありません。

だから、僕は英語を流暢に喋っているイメージな訳です。

逆の立場から見たら、多分奇声をあげているだけなような...

 

やはり思い出したらめちゃくちゃ恥ずかしいです。

 

だけど、それがあってか、段々と英語も喋れるようになってくるんです。

これがまた人間って不思議だなぁと感じますね。

 

もちろん初めは一切喋れないので、女子生徒の2人にひたすらサポートしてもらいました。

大体ずっとこの2人と一緒にいましたが、途中から僕は他のクラスメートと仲良くなり(独自言語の賜物ですね)、野郎どもで昼休みを満喫していました。

 

当時流行っていた遊びが通称ハンドボールというものです。

これは、一般的なハンドボールとは違います。

昼休みに中庭で永遠遊んでいた方のハンドボールは、

テニスボールより少し小さいぐらいのバウンドするボールを、

手足を使って、打ち返す遊びです。

各々に四角い陣地があって、プレイヤーは1バウンド以下でボールを返して相手陣地に入れます。うまく返せなかったり、場外プレーをするとアウトです。

ルールとしては卓球に近いかな?

 

最強技は、確かキックでしたね。

ボールが小さいのでなかなか難しいですが、

うまく蹴りこんで、相手陣地にスマッシュできれば、勝ち確です。

 

学校の中庭と大きな公園みたいな外庭には、白線で陣地が刻み込まれていました。

あれはもう伝統だったのかな…?

休み時間は限られた陣地を奪い合い、永遠とハンドボールしていました。

 

異文化交流はアニメとともに。

 

ここで、僕が異文化交流を深めることができた一番の立役者を紹介します。

アニメです。特にナルト疾風伝です。

いやはや、日本のアニメ文化というのは本当にすごいです。

アニメ遊びというのは、もはや万国共通に近いんじゃないでしょうか?

日本人として、とても誇らしいです。

是非にも守りたい文化です。

 

世代的に、この頃はナルト疾風伝が流行っていました。(今なら鬼滅の刃かな?)

日本の小学校にいたときも、

あれは神奈川に住んでいたことだったかな、

3、4年生の頃遊んでいた記憶があります。

友達はナルト役で、僕はロック・リー役でしたね。

言っておきますが、決してゲジ眉でもおかっぱでもありませんでしたよ?

ナルト役の子は螺旋丸をねり出して、

僕は木の葉旋風と叫んでくるくる回っていました。

効果音は全て自前です。

ブシューだのデュデュデュだの狂ったように吠えていたのを覚えています。

めっちゃ恥ずいですよね幼少期って。

 

オーストラリアでも似たようなものでした。

アニメの中では、忍術が用いられるわけですが、

印を結ぶ手の動きも詳細に描写されているんです。

それを読み取って、動きを真似して、お披露目するわけです。

おぉー。という声が上がるんですよね。

<<ちくしょう、恥ずかしい!!>>

それに、僕は創作が昔から好きだったこともあり、

巻物を色画用紙で自作したりなんてこともしました。

一つ作って学校に持っていたら、

「ウワォー!なんてクールなんだ!僕にも作ってくれ!」

っという声が殺到したんです。

これは単純にすごく嬉しかったのを覚えています。

 

初めて友達の家に行ったときも、

テレビはナルト疾風伝EnglishVer.でした。

 

 

移民国家のような異文化が混じり合う所では、どうしてもアイデンティティーというものを意識するようになります。

たとえ幼い歳だったとしても、無意識のうちに考えてしまうものだと思います。

違うのが当たり前の世界だと、自分は何が違うのか知ろうとするのは必然なものでしょう。

それに悩むこともあります。

多分に漏れず、僕も無意識下で「自分って何だろう」と感じていたのだと思います。

そんな中で、アニメというのは明確に日本文化だという認識がありました。

身近に存在するものに、日本人としてのアイデンティティーを発見できたことは、当時の僕の強力な心の支えになっていたと思います。

 

自国の文化を守り、受け継ぎ、そしてグローバル社会の中でできる限り世界に発信していくというのは、自分がどういう文化を持つどういう人間かを認識して、自分に対する矜持をもつためにとても大切なことのように思います。

 

個人的に、僕は日本文化が好きです。

お寺とか神社とか紅葉に映える景色だったり、

繊細な伝統工芸品だったり、めちゃくちゃうまい日本食だったり、

それこそアニメ・漫画文化や、MadeInJapanが誇らしく感じるものづくりの精神だったり。

綺麗だなぁ、いいなぁと思うものがいっぱいあります。

もちろん、反対に悪いところを見つけることもあります。

それも含めて、日本の性質に気づけたのは、

やっぱりオーストラリアでの経験あってかもしれないなぁと思いました。

こういう振り返りってやっぱりいいですね。

 

ちょうどいい区切りですので、パート1はこの辺で終わらせておきます。

思い出すと色々なことがあったなぁと感慨深いものです。

ヘンテコな思い出ですが、読み物として楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

小説【夢日記】評価 -最終章-

f:id:zipporah-blog:20210115102309j:plain

評価

 

2021年1月15日

 

夢を見た。

例の夢だ。

白髭のおじいさんが色々教えてくれる。

 

僕は広い草原に立ち通していた。

淡い緑が全面を覆い、そして空は澄みきっていて雲一つない晴天だった。

小風が吹くと、ふんわり若草の香りに包まれる。

夢でなければきっと横たわって、うたた寝していたに違いない。

 

前方に小さな丘があり、その上には1本の大木が生えている。

その横に人影が見えた。例のおじいさんだ。

僕はゆっくりと歩み寄る。

 

「やあ、こんにちは。

今日も今日とて、よい1日になりそうだ。」

おじいさんは言った。

僕も軽く挨拶をし、おじいさんの後ろ姿に目をやる。

 

「今日は、そう、一つ物語を語ろうか。」

 

『―――そこは暗くてじめじめした所だった。

僕は誰だろう。

それすらわからない。

ただ寒くて、寂しいんだ。

 

幾分の時が経った頃、

突然、暖かい水を感じた。

なんだろう。

「ねぇねぇ、種さん。おはよう。」

女の子の声が聞こえた。

ああそうか、僕は種でここは土の中だったんだ。』

 

すると前面に広がる草原に、女の子が現れた。

どうやら、目の前で物語が進んでいくようだ。

 

『女の子は、来る日も来る日も種に水をあげた。

種はとても喜んだ。

暗くて寂しかった記憶など嘘のように。

 

「ねぇねぇ、種さん。君は何の種さんなの?

私はトマトが好きだから、トマトの木になってほしいな!」

女の子は言った。

それを聞いた種は、女の子の期待に応えたいと思った。

トマトの実をいっぱい実らせるぞ!

そして、種は発芽しすくすくと育った。

茎はメキメキと太くなり、葉は次第に生えそろい、

少しずつ実を作る。

 

種は長い時間をかけて、立派なトマトの木になった。

きっと女の子は喜んでくれるに違いない。

期待を胸に、女の子を待った。

 

だけど、女の子は一向に来ない。

飽きてしまったのだ。

女の子は、他の子供たちと一緒に遊んでいた。

 

どうして。

君が、トマトが好きだと言ったじゃないか。

種は、悲しんだ。

そしてそれは怒りへと変わり、寂しさに化け、

ついには枯れ果ててしまった。

 

種はまた、土の中に元通り。

暗くて寒くて寂しい。

 

その時、種は気づいた。

そうだ。僕のなりたかったものはひまわりだったんだ。

期待に沿おうと頑張って、

それでも認められず苦しかった。

だけど、ようやくなりたいものに気づくことができた。

今度は、誰になんと言われようと、僕はひまわりになる!

 

種はそう誓い、ひまわりになるべく励むことにした。

世話をしてくれる人はいないけれど、種はすくすくと成長した。

発芽し、双葉が生え、茎が伸び、花弁が咲く。

 

長い時間を経て、気づけば種は立派なひまわりへと成長していた。

ひときわ大きなひまわりだ。

 

すると、いつの間にか周りに人が集まっていた。

「あら、なんて立派なひまわりなのかしら。

とっても綺麗ねぇ。」

 

僕はとても暖かい気持ちになった。――』

 

 

「この物語は、きっと君の役に立つはずだ。

依然不安は拭えないかもしれないが、覚えておくといい。」

 

あぁ、今日はもう覚めてしまいそうだ。

 

「...おじいさん、ありがとうございました。」

 

意識の戻り際、

かすかに微笑んでいたように見えた。

 

そして、僕は目を覚ました。

 

 

変わることはやはり難しい。

思考の癖は気づくことすら困難だ。

加えて感情だってすぐに切り替えることはできない。

だけど、変わりたいと思うことができた。

実はそれは大きな変化なのかもしれない。

夢の話は決して目新しいメッセージというわけではない。

それでも、今まで苦しかった経験を振り返って、

今このタイミングで、僕にわかるように、

教えてくれたから、きっとスムーズに納得することができたのだろう。

 

存外、苦しみの打開する方法というのは、結構目につくところにあるのかもしれない。

だけど、僕らは素直になる術を知らない。

僕ももう少し、愚直に生きよう。

小説【夢日記】 評価-第2章-

 

f:id:zipporah-blog:20210112213719j:plain

評価

2021年1月12日

 

 

 ぼんやりと意識がある。

あぁ、これは夢だ。

そして、あの人の夢だ。

 

そういえば、前回は...

あぁ、思い出した。

評価を気にする男の行く末を見せられたんだった。

理解が追いつかないまま覚めてしまって、

気分が悪かった。

 

いや、正確に言えば、理解はできた。

言われていることは、恐ろしいほどにすんなりと咀嚼できた。

でも、それを飲み込むことができない。いや、飲み込みたくない。

そんなモヤモヤで気分が悪かったんだ。

 

今日はこの感情を、思いそのままにぶつけてみよう。

 

「これが僕だ。

僕の一部であって、アイデンティティであって、矜持だ。

生まれる前に意思があるなら、評価を得るために

死ぬ物狂いで食らいついていく覚悟で来ているんだ。

きっとそうだ。

だから、そう簡単に投げ捨てなさいと言ってくれるな。」って。

 

さぁ、こい!

僕の気持ちを受け取ってみやがれ!

僕は意気込んだ。

 

・・・

だけど何も起きない。待てども待てども、誰も来ない。

いや、ここは夢の中だからどれほど時間が流れたかは知れないけど、

体感的には長い時間に感じた。

 

時間が経つにつれて、意気込んだ興奮が肩透かしにあったようで、

なんだか気が鎮まってしまった。

 

その矢先だ、声が聞こえた。

 

「君の考えはよくわかったよ。

しかし安心しなさい。それは君じゃない。

それは、手放せる代物だ。」

 

 

景色が変わった。

淡い記憶が呼び起こされる。

 

「君は幼い頃は評価など、気にはしていなかった。

自分の好きなことに凝っていたし、評価がなくとも楽しんでいた。」

 

目の前で淡く広がる景色は、

僕の幼少期の頃の記憶だ。

 

あぁ、なんで忘れていたんだろう。

確かに僕にも、誰の目も気にしていなかった頃があったんだ。

 

「だから、それは君じゃない。固執する必要はない。」

 

僕は絵を描くのが好きだった。

お世辞にも上手いわけではなかったが、

ずっと描いていた。

誰に見せるでもなく、ただ黙々と描くのが楽しかった。

工作が好きだった。

いろいろなものを作って楽しんだ。

例えば、白紙や段ボールを使ってジオラマを作った。

それも誰に評価を乞うこともなく、作ってそして壊した。

 

今では考えられない行動なんだ。

誰にも見られない。誰にも評価されない。

 

そこに価値がなくなった。

いつからか、絵を描いたり、物を作ることが楽しくなくなっていた。

どうして。

 

「評価癖が、どうして君に染み付いてしまったのか。教えてあげよう。」

 

「それは君が思い出せない、遠い遠い頃の記憶だ。

君は、実は評価を気にするよりも、

自分の好きなことを黙々とやる方が好きだった。

むしろ評価を気にしていない部類だ。

だけど、君の近くにいる人は、それを良しとはしなかったんだ。」

 

「評価が得られないのに、

ただ好きな事に呆けている君の姿を嫌ったのだ。

そして君はしばしば非難されるようになった。」

 

「そしてそれが繰り返される内に、君はこう考えるようになった。

『自分の好きなことをしているだけでは、周りを不幸にしてしまうのだ』

それが恐怖の記憶となって、がんじがらめになっている。」

 

「君が真に恐れているのは、

評価を得られないことよりも、

怒られる恐怖だ。

手放せない恐怖はそこから来ているのだ。」

 

「確かに、それを完全に手放すのは、きっと容易ではない。

だが、今君はこの性質が君から切り取ることのできないものではないと知った。

これが君の重りであることを知ったはずだ。

さぁ、その上でどうしたいか。考えてみておくれ。」

 

「そして、もう一つ助言をしよう。

人に気をつけなさい。

君の恐怖が繰り返されぬように注意しなさい。」

 

僕は夢から覚めた。

 

言葉が出ない。

あぁそうか...これは僕じゃなかったんだ。

 

一気に、僕の中でつっかえていたものが取れた気分だ。

僕はどうして評価を気にしたのか。

僕はどうして手放すことができなかったのか。

僕はどうして、”恐怖心”を感じたのか。

全てが僕には、腑に落ちた。

 

まだ簡単には、手放すことはできないけれど、

僕の意思は大きく変わった。

変わっていこうと思えた。

ようやく少し、向き合える。

 

小説【夢日記】 評価-第1章-

f:id:zipporah-blog:20210109182719j:plain

評価

2021年1月8日

夢を見た。

この雰囲気は、白髭のおじいさんの夢だ。
でもいつもと少し違う。
時間が経つにつれて、おぼろげな景色が次第に鮮明な風景へと移り変わっていく。
見えてきたのは白髭のおじいさんではなく、
知らない男の人の面影だった。
その男性は、ひどく周りを気にしている様子だ。
その人の心の気配が、不思議と少し伝わってくる。
周りが僕をどう見ているか、そればかりを考えている様だった。

僕はこの時、この男に強く共感した。
僕にもよくわかる感覚だ。
周りの評価がかけがえのない”生きがい”なんだ。
その灯火が消えないように、必死に握り抱えている。
とても、わかる。

突然、男の様子がおかしくなった。
男の足がすごい勢いで痙攣している。
もはや立つこともままならない。
だが、男はそんなことは気にも留めず、
ただずっと周りを気にして笑みを浮かべる。
それはとても奇妙で、不気味で、滑稽だった。
その姿はまるで、素人が操作する操り人形のようで。


「今の男を見て、君は何を思った。」
突然、白髭のおじいさんの声が聞こえた。
同時に今目の前にいた男がその翁へすり替わっていた。

「初めは共感しました。でも...とても不気味に感じました。」

「そうかい。
今の男は、君が感じた通り、人の目を気にしてばかりいる男だ。
そして、君が不気味と感じた動きは、それが起因して起きていたのだ。」
「男は、人の目を気にするあまり自分の立ち位置が明確にならないのだよ。
だから文字通り、足がおぼつかない状態だった。
評価のあるところを嗅ぎつけてばかりいて、己のやりたいことすら定まらない。
そういう状態だったのだよ。
重ねて、君はどう思う?」

「”人の目を気にしない”だなんて、そんな文句は耳にタコができるほど聞きました。
変わりたいとは思いますが、じゃあどうすれば良いんですか。
それがわからないんですから。」

僕は少し、苛立ちを覚えていた。
気にしてしまう方だって、薄々そんなことは気づいている。
だけれど、変わり方がわからないんだ、しょうがないじゃないか。
そうだよ、仕方ないんだよ。


「まず君があの男と同じであると気づいた事がまずは大事な第一歩だよ。
その次の段階は、変わりたいと心からそう決めなさい。
どうすればいいのか、ではなく、どうするか。
今の君は、気づいたものの、それを必死に抱えている。
手放したいと言いつつも、手放さないで握りしめている。
手放す覚悟を決めなさい。
そうすれば、今の君の苦しみは取り除ける。」

夢から覚めた。
今日はあまり釈然としない...

そもそも僕は変わりたいのか。
いや確かに曖昧だ。
評価を気にしない自分になって、
評価が得られなくなるようなことは嫌だ。
評価を失うことは怖い。怖いんだ。
評価が生き甲斐だ。失いたくない。

そもそもこれが僕なんじゃないのか。
僕という人間は、はなから評価がたまらなく好きな人間なのかもしれない。
水無くして生物は生きられないように、
僕にはこれがオアシスなのではないか。
それだったら、どうやって変われるって言うんだ。


でも、それでも、こいつが苦しみを手招いている。
評価を得たいという気持ちは無限に湧いてくる。
止まるところを知らない。無限の欲求だ。
でも永久に評価を得られることなんてない。
誰だって僕だけのことを見つめて生きてなんかいない。

評価は別の誰かのところに行くこともある。
必死に頑張ったとしても、必ず評価がついてくるわけでもない。
評価を得られたとしても、それに満足しない時もある。

そんな時、激しい葛藤が生まれる。
嫉妬、焦燥、憤り、失望。
その都度、身が灼かれるような苦しさが襲ってくる。
そして最後には、絶望がやってくる。
評価のためにやっているから、全てがもはや苦行だ。
あぁ、つまらない。楽しくない。
生きていても喜びがない。

この苦しさは今すぐにでも手放したい。
でも、本当にこれが僕にとって、
必要不可欠なものかもしれない。
評価のない世界など、考えもつかない。
そんな世界を僕は生きられるだろうか。
わからない...
身を縮ませ、悔しさに翻弄される。

小説【夢日記】 渇望

f:id:zipporah-blog:20210108084153j:plain

渇望

2021年1月3日

夢を見た。
また、白い髭のおじいさんがいる。
少し遠くにいるような感じがして、僕は近づくように歩を進めた。
ドスっドスっという音が響く。僕の足音だ。
あぁ、何か憤っているみたいだ。
歩くごとに、抱いている不満がくっきりと輪郭を見せる。

僕は、飢えているのだ。
ひどくつまらない。

白髭のおじいさんの元へ辿り着いた。
同じように厳格な顔つきでこちらを見ている。
そして僕に言った。

「君は今、枯れ果てている。そして渇望しているのだよ。」

僕は聞いた。
僕は一体何を渇望しているのかと。

「君は、”共感したい”という渇望を抱いている。君は、人との関わりが絶えたことで、共感できる相手を失い、その心が少しずつ飢えてきたのだ。
この未曾有の日常の中で、今まで関わっていた人にも、違いが浮き彫りになってしまって多少存在した共感ができる重なり合った部分が消えてしまった。そして、飢えはより強くなってしまって、君の不足感は増した。
君と世界観の似ている、一緒にいて心地の良い人を見つけなさい。
あるいは、小説や自伝物の本を読みなさい。
貴方に合っているから。きっと楽になる。」

そう言って、姿を消した。
もう朝だ。
夢の内容は鮮明に覚えている。
怖い夢以外は大概忘れるものなのだけど。

不思議な言葉だ。
「共感したい...」
共感されたいという言葉はよく聞くけど、共感したいってあまり聞かなかった。
実際僕も、「共感されたいんだ!」って強く感じているものだと自己分析していた。
共感したい渇望なんてあるんだなぁ。
でも、考えてみたら納得がいく。

僕は、同い年ぐらいの子が何か必死に頑張っているような姿を見ると、
なぜか心地が良くなる癖がある。
いや、たまに嫉妬もするけれど。

なんというか...
僕ぐらいの若齢の間では、要領よく遊んだ奴が賢い生き方みたいな流れがある。
その中で浮世離れして、好きなことに必死で、楽しそうな姿というのが、
僕の中の美学のようなものに、とても重なり合っているんだ。

小説なんかもそうだ。
感動だったり怒りだったりの感情移入ができる、
共感ができる小説って読んでいて楽しい。

そう考えると、”共感したい”欲求というのは案外身近な事かも。
今回、このフラストレーションをまた言語化してくれたお陰で、
またスッキリした心持ちになれた。
わからないモヤモヤほど、苛立つものはない。
そしてそれを和らげる術も知った。

周りと違う自分が出てきて息苦しい時は、共感できる場所を探そう。
本でも人でもなんでもいい。
そうすれば楽になれると知れたから。

 

小説【夢日記】 初夢

f:id:zipporah-blog:20210106090012j:plain

新年

2021年1月2日
夢を見た。初夢だ。
白髭のおじいさんが出てきた。サンタというより仙人みたいな。
厳格な顔つきなのに、どこか暖かさを感じる。
なんとも不思議なお爺さんだなぁ。

そこにはお爺さんと僕だけ。
他には何もなかったと思う。
そしておじいさんは開口一番こう言った。
そのモヤモヤの正体を教えてあげるよって。

「君は、やりたい事そしてやるべきだと思っている事、
選択肢が沢山ありすぎて、返って何も手に付かなくなっている。
そんな状況に焦燥している。
ちゃんと整理してごらんなさい。」

それを言って、おじいさんはいなくなった。僕は夢から醒めたんだ。

なんだか、腑に落ちた。
とは言っても、人間自分のことになると途端に盲目になる。
ちゃんとした理解ってなかなかできない。
でも僕には、とても良い例が目の前にあった。
僕の母は、裁縫が趣味だ。
生地を見るのがたまらなく楽しいらしい。僕にはまるでわからない。
そして、色々な生地を買っているんだけど、何も作っている気配がない。
聞いてみたんだ。そしたら、作りたいものが山ほどあって、何から作ればいいかわからないらしい。
その時は、変なのって思っていた。
でも僕も同じだったらしい。
くすりと笑って我に返った頃には、
モヤモヤは残っていなかった。
頭の中を巡る「アレをやってコレをやって」っていう想定と、
反比例するように自堕落に時間を浪費している現実に、ヤキモキしていたんだ。
それを言語化してくれて、スッキリした。
今日からは、ちゃんと整理してみよう。優先順位をつけてみよう。
1日やることを限って遂行しよう。短期スパンで達成目標を立ててみよう。
コレを忘れず続けていこう。

小説【夢日記】 日の出

f:id:zipporah-blog:20210105091217j:plain

日の出

 

2021年1月1日

 

ムシャクシャする。

イライラする。

吐き気がする。

そんな気分がずっと続いている。

もう年も明けた。

気持ちを一新しようと決めたのに、

気持ちって野郎は本当に融通が効かない奴だ。

 

また、ゲームをインストールしてしまった。

一度中毒になってから、きっぱり辞められたのに。

あの寝る前の、焼けるような後悔の念と苛立たせる焦燥感が嫌いだ。

もうやめよう。

そして、アンインストールする。

 

これの繰り返しだよ。

何回やっただろうか。

もう元通りだ。

わかっているさ、頭では。

だからこそ気分が悪い。

本当に言うことを聞かないんだ。

僕の体なのに、僕の心なのに。

 

初めは辛い気持ちから始まった。

現状に耐えられない不満が蓄積して、

徐々に徐々に蝕んできた。

それを癒してくれる処方箋だったんだ。

ゲームだとか、その他様々なものが楽にしてくれる。

でもそれが一瞬なんだよ。

数時間という間、愚鈍な自分に酔える。

でも薬が切れると、倍増した負の感情が僕を圧迫する。

 

「辛いのは僕だけじゃない。

もっと辛い思いをしている人がたくさんいる。

僕は幸福者だ。」

そう言い聞かせて、気持ちを落ち着かせよう。

でもダメだよ。

コレじゃあ、酔えない。

だって、辛いのは本当なんだ。嘘じゃない。

 

負の邪念が一日中邪魔をする。

それがどんどん増大する。

もうだめだ。

 

この時僕は、そういう時だったんだ。

 

そしてここから僕は、夢を見るようになった。

不思議な夢を。

これは日記。そう、夢日記だ。

これから僕はその夢をここに綴っていくことにする。

それが今の、僕の処方箋だ。